センター通信
産業保健相談員レター 2025年10月 ~「転倒予防に求められる客観的アプローチ」 評価と可視化の重要性~
2025.10.03
転倒予防に求められる客観的アプローチ ~評価と可視化の重要性~
産業保健相談員 島谷 康司
転倒は労働災害の中でも発生件数が多く、とくに中高年齢層の労働者においては、骨折や長期休業といった重篤な結果を招くことがあります。加齢に伴う体力の低下を考慮すれば、転倒予防はすべての年代に共通する重要な課題と言えるでしょう。
これまでの転倒対策は、床材の工夫や段差の解消、滑り止めの設置など、主に作業環境の改善が中心でした。しかし近年では、そうした外的要因に加えて、労働者本人の身体的特徴に注目し、転倒リスクを客観的に評価する取り組みが注目されています。これまでの経験に加えて、科学的な根拠に基づいた評価が必要とされているのです。
そのような中で、ウェアラブルデバイスやAI技術を用いた転倒リスク評価が実用化されつつあります。たとえば、歩行中の重心のブレや姿勢の変化をセンシングし、転倒のリスクを数値化する手法が登場しています。代表的なものの一つに、「StA²BLEⓇ(ステイブル)」と呼ばれるウェアラブルデバイスがあります。
例えば、「StA²BLEⓇ(ステイブル)」は、手首に小型センサーを装着し、目を閉じて足を揃えて立つ姿勢を1分間測定することで、体のふらつきやバランスの崩れをAIが解析し、立位の安定性を数値化する転倒リスク評価ツールです。本人が気づかないわずかなバランスの崩れや姿勢の乱れを「立位年齢Ⓡ」として見える化できるため、早期の介入や指導につなげることが可能になります。
また、身体の揺れを測るための2つの加速度センサーを用いた別の転倒評価デバイス「THE WALKINGⓇ(ザ ウォ-キング)」では、歩行距離わずか数メートルの計測で重心の動揺やステップの安定性を測定し、レポート形式で結果を提供するものもあります。こうした技術は、高齢者施設や自治体などで活用が進んでおり、今後は職場での健康管理や産業保健活動の一環としての導入も期待されています。
「転ばぬ先の杖」から、「転ばぬ先のデータ」へ。主観に頼るのではなく、客観的な指標に基づいて転倒リスクを把握することが、安心で安全な職場づくりへの第一歩となります。今後も、技術の進化をうまく取り入れながら、労働者一人ひとりに寄り添った転倒予防を推進していきたいと考えています。