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産業保健相談員レター 2025年11月 ~「歯の定期健診を受ければよかった」は第何位?~

2025.11.07

「歯の定期健診を受ければよかった」は第何位?

産業保健相談員  宮城 昌治 

 

雑誌PRESIDENTが55歳から77歳の人1,000人を対象として、「健康に関する後悔」について調査(2012)した結果、「歯の定期健診を受ければよかった」が第1位(ちなみに第2位は、「スポーツなどで体を鍛えればよかった」)でした。歯磨きメーカーのライオンが、企業で働く60代男性100人を対象として実施した同様の調査(2022)でも、「歯科医院に定期的に行けばよかった」が第1位でした。

「暴飲暴食をしなければよかった」や「日頃からよく歩けばよかった」などを抑えて定期歯科健診が後悔の第1位なのは何故でしょうか。それは、「痛くなったら歯科医院に行けば大丈夫」と思っているうちに20~30歳代で発症した歯周病がじわじわ進行し、55歳頃を境に歯が抜け始めるからです。抜けた歯はもう戻りません。まさに「抜け始めて初めて分かる歯科健診の大切さ」ですね。

 こんな話をすると、産業保健関係の皆さまから「歯の大切さは分かるけど、歯科健診は自己責任でしょ」と、よく言われます。(※注:安衛則に規定されている歯科医師による健康診断(特殊歯科検診)は対象事業者に実施義務があります。ただし、これは歯牙酸蝕症の検診であって、むし歯や歯周病の歯科健診ではありません。)

 そんな時は、次のような話をします。むし歯や歯周病は、突発的に急性化して激しい痛みを起こし、いわゆる予定外休暇の原因になったり、就労していても作業効率の低下をきたします。歯科疾患による予定外休暇は意外に多いことが知られていて、歯科健診を導入した事業場では、導入後に予定外休暇が半分以下に減少したという報告があります。また広島県の総医療費(2021)のうち、歯周病にかかる医療費は高血圧症に次いで第2位(ちなみに第3位は糖尿病)であり、歯の健康増進は他の病気と同等以上に医療費削減の効果が期待できます。歯科健診は、従業員の健康を単なる個人の問題(自己責任)としてではなく、企業の経営的な視点からの投資と捉える「健康経営」の取組だと思います。

 とはいえ、事業所歯科健診には経費がかかります。そこで提案です。広島県内の全市町で実施している「節目年齢歯科健診」を活用してはどうでしょうか。対象年齢の従業員に受診勧奨する、歯科健診の自己負担(広島市の場合は500円)を会社がキャッシュバックする、歯科健診を受けるための休暇は特別休暇とするなどにより、少ない経費負担で「健康経営」に資することができます。「歯の定期健診を受けやすい会社でよかった」と言われる事業場にしてみませんか。