独立行政法人 労働者健康安全機構広島産業保健
総合支援センター


センター通信

産業保健相談員レター2022年6月

2022.06.01

「奥様ですか?」 産業保健相談員 礒田 朋子

 
 昼間自宅にいると、勧誘の電話がかかってくる。
 昼間に出勤も登校せず在宅していることから「主婦」だろうと踏んで、第一声は「奥様ですか?」 
 私はどなたの「奥様」でもないので、「いいえ」と答える。
 すると、次は「お嬢様ですか?」と尋ねてくる。誰の娘でもないとは言えないので、「両親にとっては娘ですが」と答え、「お嬢様と呼ばれる年齢ではありませんけど」と付け加えた所、逆ギレして「私と話したくないんですか?」と声を荒げられ、ガチャッと切られた。
 友人は、男性で、野太い声で応対したにも関わらず、「奥様ですか?」と尋ねられ、吹き出したことがあるという。
 マニュアル通りなのだろうが、奥様でもお嬢様でもない人が電話に出ることは想定外ということか?
 
 かつて家族社会学は「主婦の社会学」かと言われた。
 昼間在宅の人を対象に調査をすると、回答者は専業主婦ばかりになるためである。
 今は、昼間に訪問しても専業主婦が在宅するとは限らない。
 既婚女性の過半数は仕事を持っている。一方で、コロナの影響を受けて在宅ワークが増え、男女を問わず、昼間に自宅にいる人は増えているかもしれない。
 
 昨今、大手マスコミの調査のうち、内閣支持率のような定期的な調査や大きな出来事の後の緊急調査は、RDD(ランダム・デジタル・ダイアリング)という方法で実施される。
コンピュータで電話番号の桁数の乱数を発生させ、使われていない番号を自動判別するコールシステムによって電話をかけるもので、導入当初は固定電話が対象であったが、自宅に固定電話をひかない人も増えてきたことから、今は、携帯電話も対象としている。 
 時代と共に、調査方法も進化するが、対象者の状況も変化する。
 より多くの、より正確な、より代表性のあるデータを得るには、それに合わせて方法を選択しなければならない。
 
 それにしても、「奥様ですか?」は頂けない。
 未婚・非婚の女性も多く、離婚後の女性もいる。
 既婚であっても、「奥」様とは限らず、仕事やその他、「外」で活躍している人も多い。
 当然のことながら、男性が出ることもある。第一声で、不愉快な思いをさせては、調査の協力が得られないということにもなりかねない。
 調査員の育成は、電話の向こうに対する想像力を持って、想定外を想定していくことから、かもしれない。
 
 アンコンシャス・バイヤス(無意識のうちの偏見)には、悪意もないが、自覚も反省もないため、なかなか修正されない。
 昼間、自宅にいるのは「主婦」であり、「奥」様であると決めつけるのも、一種のアンコンシャス・バイヤスであろう。
 皆さんの職場は、女性の活躍や、男性の家事・育児参加を、ちゃんと想定できているだろうか。
 想定の範囲を狭めるアンコンシャス・バイヤスに気づいて、これまでの想定外を、想定内に。
 風通しの良い職場で、誰もが気持ちよく働けるように。