独立行政法人 労働者健康安全機構広島産業保健
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センター通信

産業保健相談員レター 2022年9月 ~酸素欠乏・硫化水素中毒災害防止について思うこと~

2022.12.27

産業保健相談員 大西 修三

 ガス災害による死傷者が後を絶ちません。これらの業務上災害の現状をみると、酸素欠乏・硫化水素中毒で毎年10人前後の死亡が発生しています。また、一酸化炭素中毒でも毎年数人の死亡が発生しています。これらは、労働災害による死亡者ですが、労働災害以外の死亡者を加えますと更に多くの人が、死亡しているものと考えられます。

 労働環境下における酸素欠乏場所、硫化水素発生場所では当該の作業主任者を選任し、作業の指揮をとることが必要です。そのためには、酸素濃度測定、硫化水素濃度測定をし、酸素濃度は18%以上、硫化水素は10ppm以下であることを自ら測定しなければなりません。一方、一酸化炭素は特定化学物質に分類されていますが、製造工程等で発生する場合は特定化学物質の作業主任者が選任することが必要ですが、厨房などの燃焼器具の使用に関しては義務付けられていません。先日も自動車メーカーの厨房の洗浄室で一酸化中毒が発生しています。換気扇がかけられていなかったことが原因と言われています。

 ところで、酸素欠乏作業主任者テキストでは、共通した災害発生の原因は、
 (1)酸素濃度・硫化水素濃度の未測定
 (2)換気をせず・換気が不十分なまま立ち入り
 (3)酸素欠乏危険作業主任者の未選任
 (4)空気呼吸器などの呼吸用保護具の未使用
 (5)転落の恐れのある場所で墜落制止用器具未使用
 (6)労働者に酸素欠乏症、硫化水素中毒に関する知識が不足
 (7)関係者以外の立ち入り禁止の表示がない
を挙げています。

 しかし、根本原因を探ってみると、酸素欠乏症・硫化水素中毒に関する知識の不足につきると思います。何が原因で酸素が消費されるのか、何が原因で硫化水素が発生するのか、そして、これらの酸素欠乏や硫化水素の恐ろしさを知らないために死亡災害が発生しています。知っていれば、これらの場所に立ち入ることはしませんし、立ち入りの前に換気をし、酸素濃度や硫化水素の濃度を測定します。また、一酸化炭素中毒も内燃機関や燃焼器具による不完全燃焼による発生が原因ですから、発生の機構と一酸化炭素の恐ろしさを知っていれば防げます。

 つまり、これらの災害を防止するには、酸素欠乏作業の特別教育は勿論必要ですが、あわせて、雇い入れ時にこれらの教育することも重要です。酸素や一酸化炭素は臭いがありませんが、硫化水素は臭いがあります。知らない人は卵を腐らせて臭いを実感すると、硫化水素の存在を確認することが出来ます。