独立行政法人 労働者健康安全機構広島産業保健
総合支援センター


センター通信

産業保健相談員レター 2022年9月 ~『職域におけるがん対策について考える』~シリーズ5(最終回):事業主、産業医、産業保健スタッフの役割

2022.09.27

産業保健相談員 升味 正光

 本題の職域におけるがん対策とは、これまで4回のシリーズで述べた通り、職業がんの原因並びにその対策について、3者間で協議することが妥当と考える。

 我々産業保健スタッフは、作業者が毎日安全・安心な気持ちで働き続けさせることができ、しかも労働によって生じる病気をゼロとする労働衛生管理の体制づくりを最終目標としている。副題(シリーズ1~5)とした職業がん対策については、各職域でその意味するものを再認識することが重要である。そして、それぞれの対策等について理解し、それに関連した最新の情報を収集することが大切である。がん化の原因となる有害物質の調査やがん発生のメカニズムを探求しながら、職場で行える最大限の措置を実施していただきたい。そのためには、がん化の原因となる発がん物質への暴露の軽減を目的とする作業環境並びに作業管理、がん細胞の増殖を抑制する対策(がん化した細胞が体内でアポトーシス=自滅する体質づくり⇒健康管理)を推進し、今以上の職業がんの発生を食い止めなければならない。

 今後職域で行えるがん対策で大切なことは、体内にできるだけ有害物質が侵入するのを食い止めるがん化対策(一次予防)、がんの増殖を阻止する対策(二次予防)、癌が発生したときの対策(三次予防)を同時進行で実施することが重要である。

 労働安全衛生法には、職場で働くすべての人に対して定期健康診断、特殊健康診断の他、作業環境測定や個人暴露指標などの実施が義務付けられている。健康管理とは、これらのデータを産業医が評価し、有所見者に対して面接を行い、その結果に基づいて必要な事後措置を作業者に対して講じることである。事後措置には、就労上の区分と医療上の区分がなされ、就労上の注意や運動、栄養などの日常生活指導が行われる。今回の職業がんに関しては、現行の健康診断ではがんなどの遅発性障害の早期発見につながるような検査項目が不足しているなどが指摘されており、これらの法定健康診断実施後の有効活用、事後措置の徹底並びに新たな診断項目の実施等、それぞれの職域で行うべき産業医を中心とした産業保健スタッフの役割は大きいと言える。「やりっぱなし、受けっぱなし健診」から一刻も早く抜けだすことが大切である。産業保健スタッフは最新の業務上疾病に関する情報を補足しながら、受診者に対して健康障害を未然に防止するための就労上の注意と運動や食習慣などの生活指導は欠かせない。特に医療監視が行える産業医の役割は極めて重要であり、労働安全衛生法に定められている産業医の職務に対する事業主の理解と実践力が問われている(産業医・事業場のアンケートによる実態調査結果より)。

 最後に、業務中に発生したがんの中、現在因果関係が明らかされている物質は二十数種類あるが、申請すれば審査後に労災認定される。被災者救済制度についてはまだ十分理解されていないが、この制度は両立支援の一助に繋がるものであり、将来にわたり訴訟問題等が発生しないよう当事者との間で事前に十分承知しておくことが大切である。