独立行政法人 労働者健康安全機構広島産業保健
総合支援センター


センター通信

産業保健相談員レター 2023年5月 ~依存症について~

2023.05.01

 産業保健相談員(メンタルヘルス担当) 冨田 洋平

 「依存症」と聞くと、皆さんどんなイメージをお持ちでしょうか?
 アルコール、薬物、シンナー、処方薬、タバコといった、物質への依存のこともあれば、ギャンブル、ゲーム、SNS、買い物、盗撮、性的行動など、行動への依存のこともあります。
渇望やコントロール障害、耐性、離脱症状、健康や社会機能障害等の程度によって「依存症」と診断され、治療が必要な状態と判断されます。脳内では、ドパミン受容体数の変化、前頭前野の機能低下等が起こっています。
 
 依存症は、心理学者の廣中直行先生の言葉をお借りすると「頼った相手にとらわれる病気」であり、依存する対象がある点が、他のこころの病気と異なる点です。何を頼っているのか、それらを明らかにし、依存できる対象を増やし、依存は1つのものに偏らないようにバランスを取るのがよいという考え方もあります。
 依存症はコントロールできなくなる病気ですから、「止めましょう!」と言っただけでは改善はあまり見込めませんし、本人にとっての頼みの綱である依存対象を遮断しようとすることで、さらに事態が悪化してしまうこともよく見られます。
 
 治療する際には「止めるためにどうすればよいか」同じ方向を向く、いわば同盟関係を結び、本人と一緒に、依存症になった背景を探る必要があります。背景には、様々なストレスの他、自己肯定感が低く自分を大切にできない、人に頼れない、本音を言えない、孤独、といった問題があることが多いです。それゆえ、繋がり、自己肯定感、自己効力感を意識しながら治療しています。また気分障害やいわゆる発達障害など他の病気が併存している場合もあります。
 
 サポートする際には、行動変容ステージモデルに合わせた対応をしていくことをお勧めしています。行動変容ステージモデルは、人が行動を変える際に「無関心期」→「関心期」→「準備期」→「実行期」→「維持期」のステージを通ると考えるモデルです。「無関心期」は行動を変える価値を感じておらず、心理的抵抗が強い時期ですので、本人への共感的態度や情報提供が主体となります。「関心期」はやめたいけど続けたいという両価性がある時期ですので、行動を変えることでのメリット等を伝えていきます。「準備期」では行動を変えるメリットを十分理解出来ているので、具体的な止める方法を考えたり、自己効力感を強化することが重要と考えられています。「実行期」は離脱症状を乗り越えるための努力も必要な時期であり、やめることを継続できていることを評価し褒めることや、やめたメリットを実感してもらうのがよいでしょう。「維持期」には再燃予防のための対策を考えてもらいます。
 
 依存は生きていく上では欠かせないものですが、コロナ禍で変化した生活の中でコントロールを失い、依存症になってしまうケースもよく見られました。新型コロナウイルス感染症が5類に変更となることで、また様々な変化があると思います。普段自分は何に頼っているのか、自分自身の支援体制はどうなっているのか、今一度見直してみる時期かもしれません。