独立行政法人 労働者健康安全機構広島産業保健
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センター通信

産業保健相談員レター 2025年7月 ~職場に潜むアンコンシャス・バイアス~

2025.10.03

職場に潜むアンコンシャス・バイアス

森田由美子

 

「配慮したつもりが、相手のやる気をそいでしまった…」そんな経験はありませんか?

私たちは日々、無意識のうちに多くの判断をしています。その背景には、「アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)」が関わっていることがあります。

バイアス自体は、私たちが迅速に判断するための働きでもあり、必ずしも悪いものではありません。

しかし、それに気づかないままでいると、人間関係や職場での意思決定に予期せぬ影響を及ぼすことがあります。

 

アンコンシャス・バイアスとは、年齢・性別・学歴・役職などに基づく先入観で、個人の経験や文化的背景から自然と形成されます。

たとえば、「育児中だから責任のある仕事は負担かもしれない」「若手にはまだ任せられない」といった配慮に見える判断が、本人の意欲や成長の機会を奪ってしまうことがあります。

また、「あの人は明るいから大丈夫」「できる人だから問題ない」と思い込んでしまうと、メンタル不調のサインを見逃すおそれもあります。

こうした思い込みは自覚がないまま人間関係や職場の意思決定に影響し、心理的安全性や多様性を損なう要因となります。だからこそ、「自分の思い込みに気づこうとする姿勢」が大切です。

 

バイアスを減らす3つのポイント

① 決めつけない

属性ではなく一人の人間として向き合う姿勢を持ちましょう。「どうせ無理」「普通はこう」といった決めつけは、相手を傷つけたり、可能性を狭めてしまいます。

 

② 相手のサインを見逃さない

表情や声のトーンの変化など、小さなサインに注意を向けることで、思い込みに気づくヒントになります。

 

③ 自分に問いかける

「なぜそう判断したのか?」と立ち止まる習慣を持ちましょう。違和感や気づきをメモに残すことで、無意識のパターンに気づきやすくなります。

 

「声を聞く姿勢」も大切に

職場改善の場面では、「部下の意向は聞いていないが、きっとこう思っているだろう」と話す管理職の声を耳にすることがあります。これもバイアスの一例です。

「聞く」というシンプルな行為は、思い込みを手放し、信頼関係を築く第一歩です。相手の声に真摯に耳を傾けることで、関係も職場も変わっていきます。

 

また、バイアスは他者に向かうだけでなく、自分自身にも向けられます。

「自分には無理」「どうせできない」といった思い込みは、自分の可能性を狭めてしまいます。自分の中にあるバイアスに気づくことは、新たな挑戦や成長のきっかけにもなります。

 

アンコンシャス・バイアスへの理解と対話は、職場の信頼関係と判断の質を高め、多様な人が安心して力を発揮できる職場づくりの礎となります。

まずは、「自分の中にどんな思い込みがあるだろう?」と静かに目を向けることから始めてみませんか。